南モンゴル・ジューン・ウジムチン・ホショー(東烏珠穆沁旗)オルガイ・ソム(乌拉盖蘇木)の牧民ウネンチ氏は2016年11月25日、土地と牧羊の支払いをめぐって漢人3人と口論になり、暴行を受けた末、魏建国、魏建起(魏建国のいとこ)、魏建臣(魏建起の兄弟)、安小平の4人を殺害した。通遼市警察の微信ニュースによると、ウネンチ氏は故郷ホルチン(科爾沁)左翼中旗で9時間逃亡の末に逮捕された。
ウネンチ氏はホルチン左翼中旗ヨリーンモド(腰林毛都)鎮出身で、魏家にオラガイで牧羊するために雇用されていた。口論の詳細は不明だが、複数のニュースソースによると、同氏は、魏に羊が肥るよう効率的な飼育ができないと非難され暴行を受けていた。漢人による鉱山・農業開発によってオラガイ地域の牧草地は、砂漠化が進み、牧草地が狭まり、地下水が枯渇し、かつてない環境汚染が進んでいる。
地元モンゴル人によると、ウネンチ氏はしばしば魏に「休職」「賃金カット」をたてに仕事を強要されていた。11月25日の口論で、同氏は魏建国の指示で魏建臣、魏建起、安小平の3人にひどい暴行を受けた。
「ウネンチ容疑者は牧羊と牧草地の使用をめぐって被害者と口論になり、魏建起の自宅で、魏建起、魏建臣、安小平を25日に、魏建国を翌日26日に殺害した」と、通遼市警察が記者会見で発表した。
中国当局が公表した写真によって、ウネンチ氏が鼻血を出し、顔や頭、腕に怪我をしていることがわかる。恐らく、口論が起こった時にひどい暴行を受けたか、逮捕されて警官に拷問を受けたか、あるいはその両方があったのかも知れない。
「この事件には、少なくとも3つの疑問点があります」というモンゴル人の書き込みが中国SNSを通じて広がっている。「1つ目は、この事件が単純な犯罪ではなく、モンゴル人と漢人の民族紛争であること。2つ目は、これが他の事件とは関連のない土地紛争事件であるかどうかに注意が払われるべきであること。3つ目は、大変重要な疑問点ですが、口論中に容疑者の命が危険にさらされたかどうかです」。
「フグジルト事件のような誤った判決が出されるのを防ぐため、注意深く、徹底した真摯な捜査がなされるべきです」。この事件は、フグジルトというモンゴル人が強姦殺人の冤罪を着せられた民族事案のことである。
ウネンチ事件は、SNSを経由して拡散し、モンゴル人の間で活発な議論が起こっている。ウネンチ氏に強い同情と民族感情を伴ってアップされた詩やエッセイ、書き込みがSNSを通して広がり、同氏を「民族の英雄」や「現代のガーダーメイレン」と呼ぶようになっている。
ウネンチ氏の故郷は「ダルハン・ホショー(旗)」とも呼ばれるホルチン左翼中旗で、この地で生まれたガーダーメイレンはモンゴル近代史において偶像化された英雄で、中国の植民地主義への抵抗の象徴になっている。ガーダーメイレンは1931年、漢人の侵略からモンゴルの領土を守るために戦死している。
「これは、絶望の淵に立つ南モンゴルのモンゴル人が自らの権利や尊厳を守るためには漢人を殺すしかないというところまで追いつめられているという歴史的な事件です。中国の植民地支配が1949年に始まって以来、南モンゴルのモンゴル人は常に中国の国家テロと漢人移民という暴力の犠牲者でした。ウネンチ事件のメッセージは明らかです。つまり、南モンゴルにおける中国植民地体制の残虐性によって、絶望的な南モンゴルのモンゴル人は最後の選択、つまり自らの生存と尊厳を守るため暴力に訴えざるを得ない状況をつくり出しているのです」と、モンゴル人民党党首ハタギン・ドルギオン氏(スウェーデン在住)が語った。
南モンゴルの「政治囚」として19年の刑期を終えた今でも軟禁状態にあるハダ氏はラジオ・フリーアジアのインタビューに答え、ウネンチ事件は「中国植民政府がモンゴル独自の経済と遊牧世界を意図的に破壊しようとする悪政の当然の帰結です。これは民族弾圧であることは明らかです。今後、同じような事件がもっと頻繁に、もっと広範囲に起こり得ると思います」。