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エンフバット・トゴチョグ南モンゴル人権情報センター代表(右) |
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山田宏参議院議員 |
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石井 南モンゴル議連が結成(令和3年4月)されてから約2年になります。その経緯と、この2年間の活動の成果について話してください。
山田 我々はかねてから中国における他民族への人権弾圧について非常に強い関心を持っていました。その中で、2019年ごろから香港への人権弾圧が強まってきたのですが、ウイグルやチベットや香港だけでなく、南モンゴルでもモンゴル語の使用をなくしたり、歴史を抹消するようなことが行われていると楊海英先生(静岡大学教授)からお聞きしたのが議員連盟結成のきっかけです。中国の人権問題の中で南モンゴルにスポットを当てた議員連盟がないのでこれを作っていこうと考えました。
日本は歴史的にモンゴルとの関係は深いものがあり、とりわけ戦前においては満州国を通じて五族協和ということで、モンゴル人と日本人は様々に交流してきた歴史的経緯があります。この南モンゴルについては、我々日本人は、特に日本の国会も、非常に深い関心を持っていくべきだと南モンゴルに特化した議員連盟を作ることに至ったわけです。
議連発足当初は、「内モンゴル自治区」という言葉は、日本人は知ってはいても、「南モンゴル」という言葉には理解が薄かった。とりわけ国会内においては、南モンゴルが中国国内で問題がある地域だということを、議連ができたことで多くの国会議員が知ったと思います。南モンゴルにもそういう問題があるのだ、内モンゴル自治区ではなく南モンゴルと言うんだ、という理解が少しずつ広まっていったことは、議連結成の成果だったと思います。
チベット、ウイグルと、そして必ず南モンゴルということで、国会の決議でも中国の人権弾圧の決議(※筆者注:2022年2月衆議院、同12月参議院において「新疆ウイグル等における深刻な人権状況に対する決議」が成立)があがって、南モンゴル地域も我々の大きな関心地域であることが、国会内においても広く知られ市民権を得たと思います。
その後、楊海英先生から色々な歴史のお話をお聞きしたり、または時々の問題、中国によるモンゴル語の禁止、学校現場でのモンゴル語教育の禁止など情報を聞きながら、我々も理解を深めてきました。昨今は、ムンヘバヤルさんの事件をはじめとして、今回もこの5月に南モンゴルの歴史家、作家で反体制派のラムジャブ・ボルジギンさんがモンゴル国の中で拘束されるという考えられないことが起きていることに、我々も大変深く憂慮しています。
日本国内においても、中国政府の機関が、日本国内にいる中国出身者を監視することが行われていることがわかっていまして、同じように中国による常軌を逸した内政干渉というものに対しては、我々としても他人事ではないと考えており、南モンゴルにおける人権問題、モンゴル国においてこういうことが行われているということに対して、モンゴル国政府に対しても深い関心を持っているということをメッセージとして出しているところです。
石井 いま山田先生からラムジャブさんの事件についての言及がありました。この事件については南モンゴル人権情報センターが情報発信をしたことで日本でも一部報道が出て、関心が高まっています。解説をお願いします。
エンフバット 私個人としても、南モンゴル人権情報センターとしても、このラムジャブ・ボルジギンさんとは何年もの間、直接のつながりを持ってきました。ラムジャブさんは、南モンゴルにおける反体制の著名な作家です。『中国の文化大革命』という書籍を出版したために2019年に懲役2年の判決を受けて服役し、刑期を終えたあとも無期限の自宅軟禁とされていました。今年(2023)3月に中国を脱出してモンゴル国に逃げたのですが、5月3日に中国が派遣した警察にモンゴル国において逮捕され、中国に強制連行されてしまいました。いま山田先生が指摘されたように、本来はまさに「考えられない」事件です。独立国であるモンゴル国において、中国の警察が自由に動いているわけですから、異常な話なのです。
特にラムジャブがモンゴル国に行ってからは、私たちは頻繁に連絡を取っていましたし、インタビューも行いました。インタビュー内容は私たちのホームページでも公開しています。
ラムジャブはUNHCR(国連難民高等弁務官事務所)を通じて亡命を求めていたので、私たちはその手助けをしていました。しかし残念ながら、その取り組みをしている最中に、中国政府は自国の警察をモンゴル国に送り、ラムジャブを逮捕して中国に連れ戻したのです。私たちはラムジャブの健康状態も何も今は全くわかりません。南モンゴルのシリンゴル地域にいるようなのですが、それが刑務所にいるのか、拘置所なのか、自宅軟禁なのかなどは全く分かりません。
わかっていることは、彼に自由が無いということだけです。実は、このラムジャブのケースは、初めてではありません。2009年以降、同じような事件が少なくとも5件はありました。南モンゴルから独立国であるモンゴル国に逃げている人々に対し、中国政府が警察を派遣して逮捕し、連れ戻したというケースです。
山田 その5件がその後どのようになったのか、その捕まった人たちがどうなったのかの消息はわかっているのですか?
エンフバット 最初のケースは、2009年のバッチャンガ氏です。バッチャンガは南モンゴルのオルドス出身で、当時はモンゴル国のウランバートルにいました。バッチャンガはモンゴル・チベット医療学校の校長をしていました。モンゴル国に逃げてきており、UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)を通じて亡命を求めていました。
先ほどのラムジャブのケースと同じなのですが、中国政府が警察を送り、バッチャンガを逮捕・連行しました。この時、中国の警察は、何とモンゴル国の警察と一緒に、ウランバートルのUNHCRのビルの前でバッチャンガを逮捕し、彼の妻と娘と一緒に中国に連れ去りました。UNHCRのビルの前というのが、異常性を際立たせています。その後、バッチャンガは中国で懲役3年の刑となり服役しましたが、刑期を終えた後の彼がどうなっているのかは全く分かりません。その事件が起きた2009年のとき、バッチャンガの娘はまだ9歳でした。そのためこの娘さんはそのときのショックが元で非常に深刻な精神病を患ったということを聞いています。バッチャンガの健康状態についての情報は何もありません。
山田 2009年からモンゴル国の警察と中国の警察が一緒になって、モンゴル国にいる中国から逃げてきている人を捕まえているということは驚きです。2009年からということはかなり前からですが、どのような事情でそのようなことが起きているのでしょうか。つまり、中国から見て不適当な人物を中国と協力して捕まえるというようなことを、なぜモンゴル国政府がするようになったのか。政権が変わったりしたことが原因ですか?
エンフバット 私の考えでは、大統領や政権などの個人の問題ではありません。独立国家であるはずのモンゴル国ですが、中国の影響力はとてつもなく強大です。しかもその影響力はいま増大しています。政治的にも、経済的にも、文化的にも、中国の影響力は非常に大きいです。中国の圧力の下では、モンゴル国政府にとっては選択の余地がなく、中国に協力せざるを得ない状況です。政権与党が民主党であろうと人民党であろうとそれほど大きな違いはありませんが、いまは人民党が与党で特に悪くなっていっています。モンゴル国の市民はいまの人民党の政権が独裁的になっていっていることを非常に心配しています。
山田 以前、私もモンゴル国を訪れたことがあるのですが、モンゴルの人々の中国嫌いというのは非常に強かった覚えがあります。ロシアのことは好きなようでしたが、中国は嫌いだという人が非常に多かったのですが、いまも同じ状況ですか?
エンフバット 一般のモンゴル市民の状況は、反中国です。人々は中国が嫌いですし、中国の影響力が強くなっていることを恐れています。中国の圧力によって独立が脅かされていると感じています。
しかし、政府は全く違います。モンゴル国政府は南モンゴルについてや人権問題については全く触れません。ムンヘバヤルの事件を見てもらえばわかるように、今や、中国政府の言うことを聞いて、モンゴル国政府は自らの国民を処罰することまでしています。これがいまモンゴル国で起きている現実です。
それだけではありません。ラムジャブが中国によって逮捕されて中国に連行された事件の後、モンゴル国政府の圧力によってモンゴル国のニュースメディアはこの事件について、ラムジャブは逮捕されたのでも連行されたのでもなく、ラムジャブの家族が迎えにきたので中国に帰ったのだと報道しています。これは中国政府の作ったストーリーです。モンゴル国政府は自国のメディアに圧力をかけて、中国の作ったストーリーを流しているのです。これを見ても、いかに中国の影響力がモンゴル国政府に対して強いのかがわかってもらえると思います。
そして先ほども言いましたように、ムンヘバヤルの事件はさらに一歩悪い新しい事態なのです。モンゴル国政府が、中国の圧力によって自国民を処罰したのですから。