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モンゴル国の漫才師の皆さんへ

南モンゴルの医師Z.スヘー
20131

 

私は南モンゴルの医師で、「人(の体)を苦しめる病気の治療に尽くします」と宣誓した人間のひとりです。芸術家は「心の医師」であると私は考えています。いま人びとは重い心の病に冒され、強欲や私利私欲や嫉妬で満ちたこのように苦しい時代には、芸術家の声が民衆の心の病を治す薬になるべきだと思います。

民主主義が開花したモンゴル国で私と同じ立場の「医師」である漫才師の皆さんに一言、二言言わせてもらってもいいでしょうか。

M.バヤルマグナイをリーダーとするモンゴルの漫才師の皆さんにいくつかお尋ねします。(皆さんが南モンゴルでは婦人科をこのように呼んでいるという)「女性のサルター(太もも)を調べる場所」という看板を南モンゴルのどの婦人科でご覧になったのでしょうか。南モンゴルでは、看板は特定の検査機関がその正誤をチェックして、モンゴル文字を上に漢字を下に書くという法律があります。チベットではチベット文字を上に書くように、中国には民族地域の法律というものがあります。どのような団体・企業であっても、この法律に違反すれば営業権が剥奪され閉鎖されます。

モンゴル伝統医学では「医学の9本の木」というものがあります。これは9本の木から47本のサラー(枝)が出て、224の葉、2つの花、3つの種ができると考えるものです。私たちの祖先は数百年の間、人を診断・治療する医学を9本の木に例えて教え、継承してきたのです。したがって、南モンゴルでは医学を一本の木と考え、各科を「サラー」と呼んでいるのです。例えば「五臓のサラー(科)」「婦人のサラー」「小児のサラー」などです。もし皆さんが診療所の看板をご自分の目で見たとすれば、「サラー」というモンゴル語を「サルター」とまちがって読んだのでしょう。また皆さんの言うように「ザイルマグ(モンゴル国で「アイスクリーム」の意味)」を南モンゴルでは「ムスン・ムルジュール」と言うと笑い飛ばしていますね。これは「氷を骨付き肉のように食べる」ことを言っているのではなく、「ムスムルジ」という言葉で、完全に凍っていない状態を表しているのです。皆さんがいつも使う「ザイルマグ」というのは、水の上にウルム(クロテッドクリーム)のように「ザイル」(水の表面にできた氷の膜)ができていることを言っているのではないのですか。つまり、「ザイルマグ」という言葉は、外側が氷に覆われて内側は水っぽいか、あるいは上の方にウルムが固まって凍った水のことを言っているように聞こえ、奇妙に感じられます。モンゴル語で「二羽のカラスが相手の黒さに驚く」と例えているように自分のことはなかなかわからないものです。モンゴル語には「ムスムルジ」と同様の言葉が多くあります。

また、ケーキを南モンゴル人が「ナサン・バヤリン・ボーウ」と言っていると笑い話にしていますね。南モンゴルでは、ケーキは「ズーヒーテー・ボーウ(「ズーヒーテー」は「生クリーム付き」、「ボーウ」は「揚げパン、焼き菓子」の意味)というのです。「ボーウ」という言葉は一般にペニスのことを言っているのではないのです。歴史を遡ってもペニスを「ボーウ」と記述した文献はありません。「ボーウ」は食べるものなのです。皆さんがペニスを「ボーウ」と呼んで、人をあざ笑っているのは大変奇妙なことです。

もし皆さんが上の言い回しを人から聞いたのであれば、それは「純粋な」モンゴル人から聞いたのではないと思います。モンゴル人ならそのように自分の民族にプラスにならないような根拠のないことは言わないでしょう。他の民族か、またはエルリーズ・ホルリーズ(混血)が南北モンゴル間のちょっとしたいざこざを見つけ、それを大きく取り上げて笑い話を創作して「骨肉の一部」である私たちを罵倒し笑い飛ばしているのであって、不適切なことだと思います。世界中のあちこちに住んでいるモンゴル人がそれぞれの不足点を補い合いながら仲良くすることが現在重要なことであって、モンゴル全体を分断するような発言や行動をする人たちは私にはモンゴル人がひとつになるのを恐れる人間の行為にすぎないと思います。

ご存じのようにモンゴル語には文語と口語があります。モンゴル語は豊かな言葉ですよ。南モンゴルでは皆さんの言う「ボーウ」を口語で、幼児期には「ムンジュー」「ボージゴイ」「ブースグ」「ボーウ」「チャウガ」「ウゼム」「ナスマ(「嗅ぎタバコ」というチベット語)」「ションボグ」「ホワルズ」のように愛情をこめて呼びます。大人になったら「ハルダグ」「ブルデグ」「ショドイ」「バルダガ」と言います。老年期には「モーマハ」「オローツァライト」「ヌグートゥフ」などと呼ぶのです。このように男性器を年齢と機能によって様々に呼び習わしていますが、文章では「エル・ベレグ」あるいは「ベレグ・エルヘテン」と書きます。「ボーウ」というのは「エル・ベレグ」の決まった言い方ではありませんよ。「ボーウ」と言えば普通は食べるボーウであるはずです。その一方で、子供に「ボーウを取ってしまうよ」と言うと「おちんちんを取ってしまうよ」という意味になり、子供を怖がらせる言い回しになります。

モンゴル国はハルハ部族が大部分を占めているため、モンゴル人によってはモンゴル国を「ハルハ・オルス」と呼ぶことがあります。ハルハ・モンゴルの皆さん、心の医師になるべきモンゴル国の芸術家や漫才師の皆さん、皆さんは世界のモンゴル人の見本になるべきです。皆さんはモンゴル人のゴロムト(民族発祥の地、また火の神が宿る「かまど」の意味)に住んでいる人びとなのですよ。世界中に住むモンゴル人が皆さんのことを見ています。皆さんからしっかり学んで(他の文化の影響を受けてしまった)考え方や気持ちを正し、モンゴル人がモンゴル人でいるための免疫システムのようなものを皆さんから学ぼうと努めているのですよ。皆さん、モンゴル文字や歴史、習慣をよく学ばないでキリル文字のみで、ほんの数語の話し言葉だけで早合点してはいけませんよ。モンゴル語は豊かな言語です。口語では一つのことを多くの言葉で表現します。私たちの歴史・習慣・信仰・医学など全てはモンゴル文字、モンゴル文語を使って美しい言葉づかいで記述してあるのです。

  皆さんは少なくともモンゴル文字によってモンゴルの歴史、昔の文学を読む必要があると思います。そうすれば、皆さんの言っている言葉の貧しさが根本から治ります。私たちは幼少の頃からモンゴル文字で単語の語幹と接辞をきちんと区別して学び、モンゴルの歴史をモンゴル文字で勉強してきたのです。「サラー」と「サルター」も区別できないで、私たち兄弟を見下して侮辱しないで下さい。意味のないウソの言葉を創作して笑い話にして、国を挙げて笑い飛ばしているのを外国人が端から見れば、「ズボンをはいていない者がズボンのヒザが破れているのをあざ笑う」ということになってしまうでしょう。

南モンゴルの医師Z.スヘー

 

(原文)http://sonin.mn/news/easy-page/16775

 

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