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モンゴルの子どもたちのために伝統的な暮らしを映像に残したい
Mark Collette-White(ロイター)
2007年2月10日 ベルリン
「疾風舞う草原の牧民たちが、経済的圧力によって都会の雑踏に移住せざるをえなくなっている。彼らの伝統的な暮らしが姿を消す時、この映画が牧民の子どもたちの役に立つだろう」と王全安監督は語った。
ベルリン映画祭で金熊賞を受賞した「トヤーの結婚(図雅的婚事)」は、ヒロインが身障者である夫と2人の子どもの生活を支えるため、望まない結婚を考えざるを得なくなるというストーリーである。家族は、中国・内モンゴルの都会から遠く離れた不毛の原野で暮らしている。この地域では何世紀も変わらないライフスタイルを維持してきた。美貌のヒロイン、トヤーは家事に加えて家畜の放牧、水やり、牧草づくりと懸命に働くが生活が立ちゆかない。トヤーが離婚して再婚を決意すると、望ましくない求婚者が次々と現れる。求婚者の中には石油事業で成功して金持ちになった同級生もいた。彼はトヤーの前夫を町の近くの介護ホームに連れて行くが、前夫は新しい環境になじめず「悲劇」が少し先延ばしにされたにすぎなかった。
「私たちは、牧民たちの暮らしを記録するための映画を作るべきかどうか迷いました」と、王監督は記者会見で語った。「この映画は、おそらく地域の牧民たちの暮らしを映し出す最後の機会になるでしょう。結局、牧民は都会に埋没していってしまうでしょう」と付け加えた。
トヤーは、女優ユーナン(余男)によって演じられた。彼女は「王監督作品の中で最も大変な映画になりました」と語っている。「私にとって初めてのモンゴルで、慣れるのに4、5か月もかかりました」と、彼女は凍てつく寒さや激しく乾燥した気候などの厳しい条件について語った。「私は、撮影中、自分がトヤーになったような感覚をもちました」。ユーナンは、役作りのため羊の放牧だけでなく、馬や駱駝にも乗る必要があった。「牧民たちはいずれ都会に移住しなければならなくなるでしょう。私はこの映画に出演するチャンスに恵まれたことを本当にありがたく思っています」。
トヤーの夫バートル役は、脚本にしたがい内モンゴルの本当の牧民によって演じられた。彼もまた沙漠にある牧地からの退去命令を受け、仕方なく農民になったひとりである。
王監督は、中国にのみ込まれていくマイノリティがどのように暮らしているかを外の世界に発信するだけでなく、中国の人びとに地方で起こっている問題について考えてもらうためにも「トヤーの結婚」を制作することが重要であったと語った。「この映画は中国社会の最底辺で起こっている事実を反映しており、それは表現されるべき問題が確かに存在するということを観客に語りかけているのです」。
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